168回例会|日本穀物科学研究会ホームページ

日本穀物科学研究会
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<第168回例会>

シンポジウム「豆類から栄養源を得る」
 
 日時 2016年12月3日(土) 13:00〜17:00
 場所 神戸女子大学 教育センター

日本穀物科学研究会

豆類の糖質・タンパク質について

神戸女子大学 准教授
木村 万里子 氏
 豆類は,栄養素の含量から2つのグループに大別される。まず,大豆や落花生などの高たんぱく質(25〜45%)・高脂肪(20〜45%)のグループで,日本で比較的多く消費されている豆類である。もう一方は,日本で消費の減少が著しい小豆,ささげ,いんげん豆,花豆等の「雑豆」または「その他の豆類」と称されるでんぷんを主成分とするグループである。これらでんぷん系の豆類は,低脂肪(1〜2%)だが,たんぱく質含量は約20%と高く,特に発展途上国においては重要なたんぱく質源である。
 豆類に含まれるたんぱく質の主要成分は7Sグロブリンと11Sグロブリンであるが,両者の含有比率やサブユニット構成は豆の種類によって異なっている。大豆たんぱく質の大部分はグリシニン(11Sグロブリン)であり,そのアミノ酸組成は雑豆より優れていて,メチオニンがやや少ないほかは脱脂粉乳たんぱく質と非常に類似している。一方,雑豆のたんぱく質も,メチオニンとトリプトファンがやや少ないものの,そのほかの必須アミノ酸は,動物性たんぱく質と同様にバランスよく含まれている。また,大豆をはじめとする多くの豆類たんぱく質には脂質代謝改善作用があり,それらの機能性を生かした商品開発研究が進んでいる。しかし,まだ機能が明らかにされていないたんぱく質も多く,それらにはアスパラギン結合型糖鎖が結合した糖たんぱく質が含まれている。
 炭水化物においても,豆類には特徴的な機能性成分が含まれている。いずれの豆類でも,完熟豆には単糖類がほとんど含まれないが,少糖類として,スクロースのほかにラフィノース(スクロースのD-グルコース残基にD-ガラクトースがα1.6結合した三糖),スタキオース(ラフィノースのD-ガラクトースにさらにD-ガラクトースがα1.6結合した四糖)などの難消化性オリゴ糖が3〜7%含まれ,腸内のビフィズス菌増殖因子として注目されている。また,でんぷんのほかに数種の構成糖からなる複雑な構造の多糖類が存在することが報告されている。
 上述した通り,豆類は栄養素をバランスよく含むだけでなく,機能性成分にも富む優れた健康食材である。しかし,現在,こうした豆類の栄養価値は十分認識されておらず,日本だけでなく世界の豆類の消費量も減少傾向にある。こうした状況に国際社会が結束して取り組むため,国連は2016年を「国際マメ年」と定め,世界各地で様々なイベントが開催されている。
 著者らは,これまで需要が低迷している雑豆の応用利用研究の一環として,12種類の雑豆に含まれる貯蔵糖たんぱく質に結合する糖鎖の構造解析を行ってきた。その結果,雑豆に含まれる糖鎖の存在量と構造はその種類によって大きく異なっており,いんげん豆類には免疫活性を有する植物複合型糖鎖が,小豆や大納言にはマクロファージ活性化能をもつハイマンノース型糖鎖が豊富に存在していることがわかった1,2)。現在は,雑豆から調製したオリゴ糖やペプチドのプレバイオティクス効果および食物アレルギーマウスを用いた免疫調節活性の測定,豆微粉末添加を用いた高機能製パンの作製など,雑豆の需要を促進するための研究を行っている。今回の講演では,豆類のたんぱく質と糖質について,栄養学的な面から概説するとともに,現在行っている研究の一部を紹介したい。

1) Role of major oligo- saccharides on Cryj1 in human immunoglobulin E and T cell responses., Okano, M., Kimura, Y., Maeda,M., Kimura M. et al., Clin. Exp. Allergy.34. 770-778 (2004).
2)N-Glycans linked to glycoproteins in Japanese edible beans (Zatsumame): Natural resources for bioactive oligosaccharides., Kimura, M., Hara, T., et al. ,Biosci. Biotechnol. Biochem. 75 155-158 (2011).

※今回のご講演の際に、
 小豆粉末を配合したテーブルロールの試食品を神戸ベル様よりご提供いただきました。
 ありがとうございました。

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豆類の油脂について
京都大学 教授
菅原 達也 氏
 我が国における豆類の消費量の90%を占めているのが、大豆である。脂質含有量は、乾燥重量当たり20%程度と、他の豆類に比べて多く、いわゆる油糧種子として、食用油脂の原料としても用いられている。食用油脂の主成分はトリアシルグリセロールであるが、その構成成分である脂肪酸の組成は、由来となる原料によって異なる。大豆油の場合、多くの植物油と同様にリノール酸が主成分で、60%程度を占めている。特徴としては、α-リノレン酸を3〜8%含むことが挙げられる。α-リノレン酸はn-3系の脂肪酸であり、その健康機能が注目されているが、酸化変性されやすい欠点がある。大豆油は戻り臭と呼ばれる独特な青臭いにおいが生じるが、脂肪酸酸化反応におけるアルデヒド類やケトン類などの揮発性成分が原因とされている。
 トリアシルグリセロール以外の脂質成分には、ステロール、リン脂質、糖脂質などが挙げられる。大豆のステロールはいわゆる植物ステロールであり、β-シトステロール、スチグマステロール、カンペステロールなどが他の植物性食品素材よりも比較的多く含まれる。植物ステロールはコレステロール吸収を抑制することが知られている。
 大豆に含まれるリン脂質は、乳化剤などに広く用いられている(大豆レシチン)。ホスファチジルコリンが主成分であるが、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンなども含まれる。コリンの供給源として有効であり、肝臓脂質の低下作用なども知られている。
 近年、スフィンゴ脂質の食品機能性、とくに皮膚への効果が注目されている。我々は植物由来グルコシルセラミドの消化管吸収機構や、皮膚バリア機能向上作用とそのメカニズムに注目した研究を進めている。豆類にもグルコシルセラミドが含まれており、その含有量を測定したところ、種類によっても異なるが、30〜180 mg/100 g乾燥重量であった。その化学組成も、現在市販されているグルコシルセラミド素材(トウモロコシ、コメなど由来のもの)とほぼ同様であった。したがって、豆類のグルコシルセラミドもまた、機能性食品素材としても有効であることが期待される。

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「4th International Symposium on Gluten-Free Products and Beverages」
「2016 AACCI Annual Meeting Symposia」に参加して

神戸女子大学
瀬口 正晴 氏
「4th International Symposium on Gluten-Free Products and Beverages」

“Food Hydrocolloids for Gluten Replacement in Gluten-Free Bread and Bakined Goods”
 Mark E. Hines
 Ashland Specialty Ingredients, USA

 Gluten replacersとして、最もよく使っているものとして、
  xanthan gum, hydroxy  propylmethylcellulose (HPMC) ,
 その他のものとして、
  guar gum,sodium carboxymethylcellulose, locust bean gum, pectin,
  HPMCが最も効果的。xanthan gumはベーキング中に組織が壊れやすい。
  2−4% flour/starch basis。



「2016 AACCI Annual Meeting Symposia」

1.アジアにおける穀物、豆類食品;健康のための革新と近代化
 中国の豆を基本とする機能性食品の乳酸発酵によるポリフェノール含量と抗酸化能への影響。
 東アジアの伝統的基本食品成分の穀物や豆類の新しい利用。
 各種乳酸菌の大豆/小麦ふすま、サワードウ発酵への栄養と機能的特性。
 発芽ブラウンライスとその加工食品に関する栄養知見と抗酸化活性について。
 緑豆と穀物発酵によって生成される食品のGABAの生成と機能性。
2.食品産業における食物繊維の一つ、 サイリウムシードガムとは ?
 食物繊維の加工とその実用的な考察。
 食物繊維の新規用途。
 グルテン代替品として食物繊維。
 サイリウムシードガムの物理的、化学的性質。
 サイリウムシードガムの健康へのメリット。
3.食品安全の未来  今後の食安全性の課題?
 作物のゲノム組み替えについて:
 食品の安全性と栄養価を高めるための非遺伝子組み換え技術。
4.革新的な植物タンパク質とタンパク質誘導体:生産と特性
 穀物加工食品のための植物タンパク質とタンパク質リッチの農作物のサイドストリームの利用。
 新規、あるいは改良された機能をもつ植物性タンパク質の物理的修飾。
 小麦タンパク質分解物の気泡性と界面特性
 食品用の穀物サイドストリームタンパク質のアップグレード。
 マメ科植物タンパク質の機能性の比較、および酵素的修飾を介しての改善の可能性。
 マメ科植物タンパク質の機能性の比較、および酵素的修飾を介しての改善の可能性。
5.澱粉の物理性、機能性のマッピング;最適な食品のためのデンプンの質とその効果。
 デンプン膨潤挙動の理解と、それがどのように食品系の機能特性に影響を与えるか。
 新規デンプンベーススナック食品のテクスチュア感覚と消費者への受け入れ方。
 化学的、物理的修飾によるモチ小麦粉のデンプンの粘性、テクスチュアの改良。
 エクストルーダーを使用してデンプンベースのテクスチャーデザイン。
 食品に脂肪のような食感を与えるデンプンの展開
6.穀物の穀粒研究に新プロテオミクスアプローチ
 小麦の品質研究のためのプロテオミクス的アプローチ。
 真実の穀物:穀物タンパク質組成をプロテオミクス的に解明する。
 大麦粒プロテオミクス:現状と今後の展開。
 小麦品種開発の新規形質のプロテオームによる有効選択。
 グルテンのアレルゲン解析のためのプロテオミクス的アプローチ。
7.粉体レオロジー(粉体の吸湿とその性質)
 粒子の流動体モデルとしての動き。
 粉体レオロジーへの粒子特性の重要性。
 粉体の凝集性。
 流体レオロジーを用いた粉末特性評価。
8.タンパク質の動向と技術:健康、レギュラトリー、摂取ルールの課題
 動物実験の代わりインビトロ(試験管内)での新たな迅速PDCAAS法について。
 タンパク質の摂取ルール;アレルゲン性の観点からその機会とチャレンジ。
 肥満者への高タンパク食品摂取の影響。
 オート麦タンパク質のアミノ酸組成と消化性の摂取ルールと消費へのサポート。
 タンパク質の摂取ルール;パッケージ商品の動きから消費者の摂取ルールと挑戦を。
9.革新的な食品用途として豆類;物理化学的、栄養機能的属性について。
 新規高繊維レンズ豆粉のスナックタイプの機能性食品への利用:
 新食品への豆成分利用について。
 レンズ豆/コーン/発酵カベルネ・ソーヴィニヨン粉によるエクストルージョン食品。
 ヒヨコマメ、未熟バナナとトウモロコシ粉で作ったグルテンフリースパゲティ。
 栄養酵母で強化した豆ベースの膨張エクストルージョン食品。
10.米と米ベース食品の構造/機能の最近の研究
 中国の伝統的発酵米麺の品質への米品種と製粉方法の違いの影響。
 湯でボイルした米の米品種、水浸漬条件等の重要性。
 健康に大切な米粒品質の強化。
 製粉過程の違い による米飯の官能検査。
 蒸し米パンの製造技術。
11.穀物ベース製品を開発するための感覚的アプローチと新しい方法。
 TCATA法を使用して、すぐに食べられる穀物ベースのシリアル製品の開拓。
 食品を受け入れのための消費者の味の複雑さについて。
 すぐ食べられる穀物への栄養上の心配と食べたい感覚とのバランス感覚について。
12.発芽穀物とは消費者にとって何ですか ?
 発芽穀物の栄養効果。
 安全性と栄養面への発芽穀物の加工技術。
 発芽食品の栄養上の魅力。
 健康と病気予防に発芽種子の効果。
 発芽穀物:機会と挑戦。
13.サンプリング、分析方法の開発と統計処理
 サンプリングのあやまり。
 OC曲線(抜き取り検査))の開発ー サンプリング、サンプル調製および分析に関連する誤り。
14.豆粉&ファイバーの栄養・機能の理解
 食後血糖と満腹感への豆エクストルージョン食品の効果。
 微生物、炎症やクローン病に及ぼす エンドウ豆外皮繊維の役割。
 in vitroでの炭水化物の消化率に及ぼす豆粉粒子サイズの効果。
 豆粉とその成分の機能性。
 ドウ発酵への添加エンドウ豆繊維の効果とその粒度サイズの効果。
15.小麦の品質について、我々はそれをこれまでどのように測定してきたか?

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豆類の加工、豆腐について
静岡県立大学 教授
下山田 真 氏
 大豆は中国を起源とする作物であり、弥生時代には日本で栽培されていた。大豆は約35%のタンパク質と約20%の脂質を含むために、タンパク質源あるいは脂質源として利用されている。一方で組織が堅いうえに、不快臭の原因であるリポキシゲナーゼやトリプシンインヒビター、ヘマグルチニンといった生理活性タンパク質を含んでいるためにそのまま食することは難しい。こうした素材を我々の祖先は様々な方法で調理・加工することで利用してきた。そこにはヒトの知恵が凝縮されているが、知恵を絞るだけの価値を大豆に見出していたともとらえられる。
 大豆の加工品は様々な形態をとるが、それぞれに歴史的な経緯を経て今日につながっている。そうした大豆加工品の中で20世紀も後半になって大きく進歩したものとして、豆腐の原料でもある豆乳を挙げることができる。豆乳は主にタンパク質凝集体と油滴からなっており、一般的には十分に吸水させた大豆を水とともに磨砕して呉汁とし、加熱後におからを分離することで得られる。しかしながら上述した手順は豆腐用の豆乳を調製する方法であり、飲用豆乳の場合には別な方法によっている。そのかぎは加熱磨砕である。磨砕時あるいは磨砕直前に加熱するのは豆臭の原因となるリポキシゲナーゼを加熱失活させるためである。この技術は1970年代に開発されて豆乳の品質は大いに向上し、第1次豆乳ブームを迎えることとなった。その後、吸水工程を省略する企業が現れ、丸大豆をそのまま水あるいは熱水とともに磨砕することが行われるようになってきた。
 豆腐は大豆加工品の中で最も生産量が多く、おおよそ半分を占めている。豆腐は豆乳に苦汁(にがり)などの凝固剤を添加することで得られる。豆腐の凝固メカニズムについては2価の金属イオンがタンパク質同士を結び付けることでネットワーク構造を構築すると説明されてきたが、その後の研究からそれだけではないことが示されている。すなわちカルシウムイオンやマグネシウムイオンがタンパク質凝集体表面の負電荷を中和し、電気的な反発力がなくなることで別のタンパク質で覆われた油滴表面に結合することが豆腐形成の開始点との考えが提出された。さらに豆乳中のタンパク質成分が取り込まれて、脂質粒子とタンパク質凝集体からなるネットワーク構造が構築されることで豆腐カードが形成されるというメカニズムが示されている。
 豆乳は凝固剤を添加しなくとも、ふたのない浅い容器中で温和に加熱を続けることで湯葉を形成することが知られている。類似した現象はもともと牛乳に見られラムズデン現象として知られている。湯葉の形成メカニズムについては古くから研究され、水の蒸発やタンパク質の熱変性が必須であること、油脂の存在が湯葉形成を促進することなどが示され、生成メカニズムが提案されている。近年、豆乳成分の拡散速度と湯葉膜への取り込み量との関係やタンパク質サブユニットごとの湯葉膜への寄与について検討され、メカニズムが修正・追加されている。
 豆乳を原料とする大豆加工品として豆腐や湯葉を挙げたが、これらの加工品は豆乳の性質に依存して食感等が影響される。すでに豆腐用の豆乳と飲用豆乳の製造方法は似て非なるものとなっているが、今後、それぞれの加工品の品質に応じた目的別の豆乳製造方法が構築されるものと期待している。

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