170回例会|日本穀物科学研究会ホームページ

日本穀物科学研究会
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<第170回例会・総会>
シンポジウム「グルテンフリー食品について」
 
 日時 2017年5月13日(土) 13:00〜17:00
 場所 神戸女子大学 教育センター

日本穀物科学研究会

米粉のグルテンフリーパンについて
熊本製粉株式会社 研究開発部
牛島 雄毅 氏
 最近、日本においても「グルテンフリー」という言葉を見聞きする機会が増えました。小麦アレルギーやグルテン不耐症などを対象とする以外にも、ダイエットや体質改善の目的でグルテンフリー食品を求めるケースもあるようです。また、2020年の東京オリンピックの開催では世界中から選手や観光客が来日します。今後、国内でグルテンフリー食品に対するニーズが一層高まることは間違いないと考えられます。
 熊本製粉鰍ナは、食品7大アレルゲンが完全制御されている専用工場で製造された米粉およびその米粉を使用したミックス粉を対象にグルテンフリーの認証〔認証機関:Gluten-Free Certification Organization(以下、GFCO)〕を取得しています。GFCOは、アメリカで最もグルテンフリー認証の基準が厳しい認証団体で、「小麦に含まれるたんぱく質の一種‐グルテン10ppm(0.001%)未満でなくてはならない」という基準を設けています。2015年1月、この厳格なGFCOの審査を受け、当社の米粉商品は日本の米粉製造業として初のグルテンフリー認証を取得しました。
 現在は、家庭用商品を中心にパン、ホットケーキ、お好み焼き、天ぷら用などのミックス粉を販売しています。また、グルテンフリー商品に関心の高いアメリカ向けにも通販Webサイトを開設し、国内と同じ品質の米粉や玄米粉を販売しています。さらに、年に数回開催される「Gluten Free Expo」にも出展し、好評を得ています。
 熊本製粉鰍ノおける米粉事業は、食料自給率の向上を目的とした新規需要米への取り組みが軸となっています。すなわち、米粉の位置づけは小麦粉の代替素材であり、「もっちり・しっとり・サックリ」といった食感のパンや洋菓子、揚げ物が作れる米粉を開発することが重要なコンセプトでした。米粉を小麦粉の代わりに使うことが目的ではあるけれども、それはグルテンフリーを意識したものではなかったのです。
 とはいえ、米粉事業を展開していく上で「米粉100%でパンや麺を作る」といった課題は、技術的な最終目標として必然的に存在しました。何とか米粉だけでおいしいパンや麺を作りたいという思いは、米粉の研究者として当然のことのように思います。
 さて、我々は何がきっかけでグルテンフリーを強く意識するようになったのでしょうか。それは食品関連の展示会等で米粉を出展した時のことです。そこでは海外市場に米粉を紹介したいというバイヤーの訪問を度々受けました。バイヤーの人達は「海外でも米粉は販売されており、グルテンフリー食品の素材として認知されている。日本の高品質な米粉を紹介すれば必ず受け入れられる。」と云うのです。グルテンフリーという市場に米粉の将来性を強く感じた我々は、グルテンフリーの認証を取得することに決めました。
 ところで、グルテンフリー食品において米粉はどのように使われているのでしょうか?パン、パスタ、マフィン、etc・・・国内外問わず小麦粉の代替品として利用されることがほとんどのようです。
 小麦粉を米粉に置き換える場合、グルテンの力を必要としないスポンジケーキのような洋菓子では容易に代替が可能です。一方、ボリュームの形成維持にグルテンが必要なパンになると米粉だけで作ることは極端に難しくなります。
 グルテンフリーでパンを作るためには、イーストの発酵によって発生したガスを生地中で安定に保持する必要があります。気泡の安定性を向上させるためには、生地の粘度を調整することが重要と考えられており、ここにグルテンフリーパンのノウハウがあるといえるでしょう。粘度の調整にはHPMCなどの増粘剤を使うのが一般的ですが、熊本製粉鰍ナはこのような方法以外に米粉だけでグルテンフリーパンを作る研究を行っています。
 今回の定例会ではグルテンフリー米粉パンの話を中心に、熊本製粉鰍ノおける米粉を用いたグルテンフリー食品の開発について、紹介させて頂きます。
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メチルセルロ−ス・HPMCのグルテンフリ−パン等への応用
信越化学工業(株) 合成技術研究所
山本 厚 氏
1.グルテンフリーパンへのメチルセルロース・HPMCへの応用について
 一般にパンをつくる場合には、まず小麦粉にイースト(酵母)、油脂、砂糖、食塩などの材料と水を加えて捏ねる作業が行われ、やわらかいのに弾力がある生地が作られる。これは小麦粉に水を加えて捏ねると小麦中に含まれている主要なタンパク質であるグリアジンとグルテニンが絡み合ってグルテンができ、捏ねられている最中に薄い膜になり、小麦粉中のでん粉粒や抱き込まれた気泡を包み込みながら、網目で細い繊維状になるからである。次に行われる発酵課程では生地中のイーストが働いて炭酸ガスとアルコールを発生する。炭酸ガスはたくさんの小さな気泡になって生地組織中に入り込み、全体を押し広げ、きめが細かい穴のあるパンを作っていく。アルコールは生地を伸びやすくし、風味や香り付けに役立つ。 発酵の終りころには炭酸ガスを蓄えて伸びた生地は、オーブンで熱が加わると最後のガスを発生し、膨張して体積がさらに大きくなって、よく伸びた穴のあるパンに仕上がっていく。生地の中心温度が95〜97℃に上がるので、タンパク質であるグルテンの網目状組織は熱で変性して固くなり、パン中にしっかりした骨組みができて、冷えてもその形を保てパン独自の食感が発揮される。建物の鉄筋コンクリートに例えると、でんぷんがコンクリート、グルテンが鉄筋の役割を果たしている。グルテンを含まない米粉、スタ−チ類にイ−ストなどをまぜてパン生地を調製して発酵、焼成しても小麦粉パンのような細かい穴のあるパンにするには工夫が必要である。当社の製品名をメトローズとするメチルセルロ−スおよびHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の製品のいくつかを添加して、米粉とコーンスターチを添加した小麦粉グルテンを含まないパン生地を調製し評価してみた。メチルセルロース及びHPMCは水溶性のセルロースエーテルであり、第8版食品添加物公定書に記載された食品添加物である。メチルセルロースとHPMCの水溶液は加熱すると流動性がなく、粘性や付着性の少ない白濁した弾性のあるゲル状となり、冷却すると再び流動性と粘性や付着性のある水溶液にもどるユニークな性能を有する。パン調整時の加熱焼成段階でこの弾性あるゲル特性がパン生地に付与され鉄筋の役をなし、食する時には冷え、高い弾性が解消されて柔らかいパンの食感として食することができるとして使われてきている。メチルセルロースとHPMCの品種グレードを変えて実験的にパンを試作評価した結果、品種グレードごとの溶液粘弾性や加熱時のゲルの粘弾性の違いに相関して、焼成パンのでき栄え、食感が変わることがわかったので報告する。

2.グルテンフリ−パン以外へのメチルセルロ−ス・HPMCの応用
 メチルセルロ−ス・HPMCは上記のように独特の熱可逆ゲル化性を示すだけでなく界面活性を発現する。これらの特性を利用した以下のような例を紹介する。
 (1)米粉パウンドケ−キや米粉うどん。
 (2)アレルギ−物質として問題となる場合がある卵を使わないメレンゲ焼き菓およびマシュマロ。
 (3)メチルセルロ−ス・HPMCの水溶液が乾燥されるとフィルムになる性質を利用したHPMCと食品添加物の界面活性剤も併用した口にいれても安全・安心の割れないシャボン玉。
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バナナ、納豆、サイリウムシードガム、ナメコ、ヤマイモ等/デンプンのグルテンフリーパン調製研究
大阪成蹊短期大学
田原 彩 氏
 小麦は、食物アレルギーを引き起こす食品のうち、症例が多いことや症状が重篤であることから特定原材料の一つとなっている。小麦が含まれている食品を食べることが制限されている人がいる一方で、パンやマカロニ類など小麦を原料とする食品は米と並ぶ主食の一つとなっており、日本人の食卓に欠かせないものとなった。小麦粉製品の代替品を開発することが小麦粉アレルギー患者に望まれており、その背景を受けて多くのベーカリーで、小麦粉アレルギー対応のパンが販売されるようになった。小麦粉フリーのパンを作る際に米粉を用いることが一般的になりつつあるが、米粉はパン製造に欠かすことのできない「グルテン」を形成することができず、膨らみを得るためには小麦粉から取り出した「グルテン」が必要となってくる。そのため、米粉のみで十分な膨らみをもつパンを製造することは難しいと考えられていたが、現在は研究が進み、米粉でも良好な製パン性を得られることが報告されている(Agric. Food Chem. 58: 7949-7954 2010, J. Food Sci. 77: 182-188, 2012)。
 一方、欧米においては、小麦中グルテンが体に異常障害を引き起こすセリアック病(Celiac Disease:CD)が問題となっており、近年、グルテンフリー食品の開発研究が盛んに行われている。2016年に開催された15th International Cereal and Bread Congress (Istanbul, Turkey)においては、グルテンフリー食品に関する研究発表が21題(353題中)あるなど、世界中でこの分野への関心が高まっている。これまで欧米のグルテンフリー食品の研究において、食品調整のために使用されていた食材は、主にデンプン、米、雑穀、豆などが多く、グルテン代替食品を用いるというより、グルテンフリーにすることによる栄養価の低下をどのように補い強化するか、ということに重きがおかれてきた。このため、栄養価は高いが、膨みの足りない、物足りない食品となっていた。
 そのような中、バナナやジネンジョなどの粘性を持つ食材に着目し、グルテン代替として利用したグルテンフリーパンの研究において、グルテンを入れずとも小麦粉で作ったパン同様の膨らみを持つパンの得られることがSeguchi et al. によって報告された(FSTR 18: 534-548 2012, FSTR 20: 613-619 2014)。これらの研究より、十分な膨らみのあるグルテンフリーパンを得るためには、ジネンジョ、過熟バナナのような粘りが必要であることがわかった。本研究ではこれまで用いたことのない粘性食材(納豆、オクラ、ナメコ、モズク、サイリウムシードガムなど)を利用し、如何なる粘性食材でも良好な製パン性を得ることができるのか、それぞれの製パン製造の可能性について検討を進めた。今回の講演では、納豆の研究結果を中心に各種粘性食材を用いた製パン試験結果についてご紹介いたします。
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インドネシアと日本の穀物、パン、ケーキ等の比較
ウダヤナ大学(インドネシア)
ブトウ・チトラ・アリスタ 氏
1.インドネシアの主食
 インドネシア人は昔から米を主食として食べる。インドネシア人は白飯がとても大好きで、1日3食白飯とおかずを食べる習慣がある。一日中に白飯を食べなかったら、ミゴレン(インドネシア風の焼きそば)やパンを食べたが、「一日中に食べなかった」というインドネシア人の考え方。白飯はインドネシア語で「ナシプティ」nasi putih と言う。インドネシアでは、米の種類は細くて、さらさらで、ジャバ二カ米である。
 あまり良くない地域では、稲作を行えないので、キャサバやサゴヤシを主食として食べる。特に、マルク州とパプア州の人々は主食としてサゴヤシを食べる。彼らは一般に、サゴの様々な料理を食べる。

2.インドネシア人の食べっぷり
 日本人と同じくご飯はおかずやスープと一緒に食べる。しかし、インドネシアではコース料理習慣がない。1回食事ときに、ご飯とおかずは一皿に全部まとめて、食べる。ですから、インドネシア人に「日本料理はどうですか」と聞くと、「日本料理がおいしいけど、定食ならおかずが多すぎて、なかなか食べ切れなかった」と答えられてた。インドネシア人の考え方は「白ご飯しかないけど、平気」つまり、おかずがないときに白飯があれば、白飯と塩またはサンバル(インドネシア風ソース)と一緒に食べるともう十分だと思われるという考え方がある。

 3.インドネシアと日本の穀物、パン、ケーキ等の比較
 インドネシアでは主食として米のごはんを食べる。ほかにも小麦、トウモロコシ、豆、芋、キャッサバを食べる。日本では、特に主要な穀物は5つあり、米・麦・粟・豆・黍(きび)または稗(ひえ)である。
 インドネシア人は主食としてパンを食べないが、パンはsnackとして食べる人が現在増えているそうだ。インドネシアの特別なパンはただ一つだと思う。それはroti buayaと言いう。でっかくて、鰐の形で、ジャカルタ市人の婚約の贈り物だ。他によくパン屋さんで売れているパンは食パン、クロワッサン、フランスパン、などもある。インドネシアではパンを食べる人がほとんど若者。60代の人はあまりパンを食べないが、体調が悪いときしか食べない。最近、インドネシアでも日本風のパンがあり、メロンパン、カレーパン、アンパン、クリームパンなど、特に抹茶の味とあずきの味だ。インドネシア人はあまりパンを食べてないが、最近「時間がない」理由のきっかけで、パン屋さんや、コンビニで売ってるパンを食べる人がだんだん増えていく。「日本のケーキ」を聞くと、頭の中にかわいい形や特別な味が思い浮かぶ。インドネシアのお菓子・ケーキは日本の和菓子と形、材料なども似ているが、日本では餡が良く使ているがインドネシアではサトウヤシ(palm sugar)とココナッツがよく使っている。
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