<40周年記念特別例会>
〜低アレルゲン食材としての大麦粉並びにコンニャク粉のパン・菓子加工への応用〜

日時 2014年10月18日(土) 13:30〜17:00
場所 エコール辻大阪 
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<講演>
「我が国における食物アレルギーの現状と大麦の特性について」
近畿大学 名誉教授
光永 俊郎 氏
 食物アレルギーは、原因となる食物を摂取した後に、免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状(皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、アナフイラキシーなど)が惹起される現象である。その病態によってIgEを介する機序と介さない機序(多くはT細胞伝達性)のいずれか、あるいは両者が関与する。この食物アレルギーは食中毒や食物中の毒性物質により発症する疾患とは異なり、特定の素因を持つヒトに限定して発症する。
 現在、食物アレルギーはクラス1食物アレルギーとクラス2食物アレルギーの2つに分けられている。前者はIgE依存性であれ、非依存性であれ食物アレルゲン(原因物質)がタンパク質で、経口摂取により消化管で感作が生じて誘導される食物アレルギーである。この食物アレルギーのわが国の現状は下の表1に示す。
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これに対して後者は花粉などの吸入アレルゲンによる感作(花粉症)の後、共通抗原性を有する果物や野菜との交差反応で発症する食物アレルギーで、感作アレルゲンと異なる誘発アレルゲンで惹起されるので従来のクラス1食物アレルギーから区別してクラス2食物アレルギーに分類されている。ともに現在これらの食物アレルギーは増加傾向にある。
 また、現在、原因食品の1つの小麦のアレルギー症状は、次の4つに分けられている。
 @クラス1食物アレルギー
 A小麦粉の吸引により発症するパン職人喘息 
 B小麦グルテンによるセリアック病
 C食物依存性運動誘発アナフラキシ−。
 なお、今回の本研究会40周年記念特別例会講習の部で、吉野精一先生(エコール辻大阪 専任教授)による、“低アレルゲン食品素材による菓子・パンの二次加工の実演・講習と、その「こつ」の提言”に用いられる食材の「大麦」の特性についても、ここで紹介する。
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<講演>
「コンニャクの特性と分級製粉による小麦および発芽穀類の低アレルゲン化」
兵庫教育大学大学院 自然・生活教育学系准教授 前田 智子 氏
株式会社FUDAI 学術顧問 森田 尚文 氏
 コンニャクは地下茎のコンニャク芋(Amorphophallus conjack)を乾燥しデンプン・夾雑物を取り除いた精粉に含まれる多糖類であるグルコマンナンに約30倍の温湯を加え撹拌し生石灰を加え粘性が最高になるまで同一方向に撹拌後、型取り、ついで熱湯中に入れ加熱・凝固させ、冷却・水さらしによりあく抜きしたものである。このグルコマンナンはグルコース:マンノースが1:1.6の割合からなりβ-1,4結合をしているため分解酵素は存在しない。僅かに腸内に存在する微生物Aerobacterにより分解される。そのためコンニャクはダイエットによいとか、腸管内の掃除屋と言われる所以である。このようにコンニャク粉には凝固をする特性があるために小麦粉に含まれドウになる特性の代替になることが期待される。そこで今回は大麦粉、小麦粉等にコンニャク粉を併用した低アレルゲン加工食品への素材として吉野精一先生(エコール辻大阪 専任教授)に検討して戴いた。
 小麦粉には通常の製粉を行うとアレルゲンとなるタンパク質が共存するために、製粉方法としてドラフトバーレー分級精粒法を小麦穀粒に応用し分級粉を調製した。穀粒を竪型精米麦機により外層より10%刻みで8画分の分級粉を調製し、それらの画分のアレルゲン性について、小麦にアレルゲン性を示す患者の血清を用いSDS-PAGE、IgE-イムノブロッテングテストをおこないアレルゲンタンパクの有無を確認した。その結果、内層部の一部にはアレルゲンタンパク質量が減少した画分の存在が明らかになった。
 次に穀類の発芽による機能性の改善と低アレルゲン化について検討した。使用穀類はソバであるが、このソバにはアレルゲンタンパクの存在が明らかにされており、かなり重篤なアレルギー反応がおこることが知られている。発芽の検討に先立ちソバの分級製粉により得られる17画分のソバ粉を用いてのSDS-PAGEとIgE免疫ブロット法に依るアレルゲンタンパク質の有無について検討した。その結果、15kDa(Fag e2)、50KDaのタンパク質のバンドは内層画分のFS-1〜FS-3には含まれないことが明らかになった。
次にソバ穀粒を水に浸漬して発芽処理を行ない、この試料を用い発芽ソバナット―とソバ味噌についてアレルゲンテストをおこなった。ソバナット―では36時間の醗酵時間で15KDaと22KDaのアルブミンとグロブリンのIgEイムノブロッティングによるバンドが僅かに検出できるのみであった。一方、ソバ味噌から抽出されたタンパク質のSDS-PAGEからはアルブミン、グロブリン、グルテリン、プロラミン等の高分子量タンパク質のバンドの濃度は熟成60日の醗酵後には低下して消失した。またIgEイムノブロッティングによる反応ではアルブミンとグロブリンの15KDaと22KDaにおけるバンドが熟成60日では殆んど検出できない状態まで減少した。  
 以上の結果、穀類の発芽により種々の低分子の機能性物質、遊離アミノ酸の増加のみならずアレルギータンパク質の低減化が期待でき加工食品への応用が明らかとなった。
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<講習>
「大麦ならびにコンニャクのパン・菓子加工への応用と『こつ』の提言」
辻製パンカレッジ 専任教授 吉野 精一 氏
辻製菓専門学校 助教授 浅田 紀子 氏
 今日、花粉症や鼻炎、喘息やアトピーそして食物アレルギーの疾病者数が幼児を中心に成人にいたるまで増加の傾向にある。食物アレルギーに関して言えば、厚労省がアレルギーの原因食物として食品表示を義務づけている特定原材料7種(卵、乳、小麦、落花生、蕎麦、エビ、カニ)と特定原材料に準ずるもの20種がある。特に卵、乳・乳製品、小麦は幼児期におけるアレルギー発症率が高い3大原因食物である。アレルギー発症の予防としては個々のレベルで原因食物の摂取を避けることである。すなわち「食べない、飲まない」であるが、個によっては「触れない、吸わない」も含まれる。ここで問題になるのは、現在、一般市場に流通している食品の大半は数十種類の複合材料によって製造されている。卵、乳製品、小麦はじめトウモロコシ、大豆などは何らかの形で幅広く、多くの加工品に使用されているのでそれらの排除が難しい。加えて、小麦粉、乳製品、卵などはパン・菓子の主たる原材料であるので、それらを除去しての製造は困難を極める。たとえば、小麦粉を他の穀物粉に代替すれば、パンがパンと言えない代物となる。また、原因材料の使用量を減少すれば予防に役立つかと言えば、微量でもアレルギー症状を引き起こす食材もあれば、多くの原因材料においても、たとえば一日に何グラムまでは摂取許容量といった臨床レベルの参考資料がないので残念ながら効果が確認出来ない。次に低アレルゲン素材のパン加工における機能性の優劣が問題となる。具体的にいえば、パン生地の作製〜発酵〜焼成の各段階で、生地の物性を適の状態に保つことが出来るか否かである。最後に低アレルゲン素材の持つ風味・香味がパンのそれに適合するか否かの問題がある。いくら身体に良いものでもパン・菓子全体の風味・香味・食感を著しく低下させるものは適性があるとは言えない。
 以上を考慮して、本講習会では大麦粉、コンニャク粉、マンナンライスを一部使用したパン・菓子のテストベーキングを再現し、パン加工における機能性と官能レベル(風味・香味・食感など)に焦点を当て、それらの可能性を追求するものである。
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