<第160回例会>

日時 2014年12月6日(土) 13:00〜17:00
場所 神戸女子大学 教育センター
日本穀物科学研究会
食品の機能性向上と澱粉特性
独立行政法人 農研機構 北海道農業研究センター
 野田 高弘 氏
 米、小麦、トウモロコシといった主要な穀類が世界各国の多くの地域で主食としての役割を満たしている。一方、世界の地域によっては、穀類以外のイモ類、豆類、雑穀が主食に近い位置づけとなっている。穀類、イモ類、豆類、雑穀といった植物性資源が、食品としてヒトに摂取された場合、その化学成分中で最も含有量の多いのが澱粉である。澱粉は、グルコースが多数連なった結晶性の巨大分子であり、α−1,4結合で直鎖状に伸びたアミロースと、短いアミロースがα−1,6結合を介して多数結合した高分岐多糖であるアミロペクチンから構成される。アミロースとアミロペクチンの含量は澱粉の種類によって異なるが、一般的には前者は15〜25%、後者は75〜85%程度である。ただモチ種の澱粉はアミロペクチンのみでほぼ構成され、高アミロースコーンではアミロース含量は60〜70%に達する。澱粉粒の水懸濁液を加熱するとある温度以上で粒は不可逆的に膨潤し、多量の水を吸収して糊化する。このとき結晶構造が消失することで消化性が高まり、ヒトにとって嗜好性の高い食品となる。したがって、澱粉性食品は一般には加熱処理が施される。澱粉は天然高分子としては容易かつ安価で高純度の製品が得られるため、食品としてだけでなく多岐の工業品としても利用される。精製された澱粉粒は、炭水化物以外の微量成分として無機成分(主にリン)、脂質、タンパク質を含んでいる。ヒトが澱粉を摂取すると、澱粉は加水分解されて、主たるエネルギー源として蓄積される。すなわち、まず、口内で唾液中の消化酵素であるα−アミラーゼにより、アミロースとアミロペクチンのα−1,4結合が不規則に切断され、デキストリンやマルトースに分解される。このような部分分解物が十二指腸までに送られると、膵液に含まれるα−アミラーゼにより完全にマルトースに分解される。マルトースはさらに小腸壁に存在するα−グルコシダーゼにより最終的にグルコースに分解され、小腸で吸収される。一方、Englystらは、澱粉を消化性の難易度別に易消化性、遅消化性、難消化性の3種類に分類し、これらの中で難消化性のものはアミラーゼに対する消化を免れ、大腸内に到達することを報告し、これを難消化性澱粉resistant starch(RS)と命名した1)。RSは消化されないメカニズムの相違によって4種類(RS1〜4)に分類される2)。RS1は細胞壁などで物理的に封じ込められていることで、消化酵素が澱粉まで接触できない状態のものであり、加工度が低く自然のままに近い穀物などが該当する。RS2は十分に加熱されていない未糊化の澱粉で特に分解されにくい馬鈴薯澱粉、バナナ澱粉、高アミロースコーン澱粉が該当する。RS3は、一度糊化した澱粉を低温で置くことにより再結晶化して安定な構造をとるようになった老化澱粉のことである。RS4は、ヒドロキシプロピル化、酢酸化、リン酸架橋などの化学修飾を施して消化性を低くしたものである。RS の定量は、検体試料をまず膵臓α−アミラーゼ(パンクレアチン) とアミログルコシダーゼで分解して消化性の澱粉を除いた後に残る非消化性画分中の澱粉を定量することにより測定できる3)。グリセミック指数(GI)は、ブドウ糖を摂取した後の血糖上昇率を100として、それを基準に、同量摂取したときの食品ごとの血糖上昇率をパーセントで表した数値である4)。GI値が高いほど食後の血糖値を上げやすく、低いほど上げにくくなり、RS含量の高い食品はGI値が低下するとも考えられている。

(引用文献)
1) H.N. Englyst et al., Eur. J. Clin. Nutr., 46, S33-S50, 1992
2) M.G. Sajilata et al., Compr. Rev. Food Sci. Food Safety, 5, 1–17, 2006
3) B.V. McCleary et al., J. Assoc. Off. Anal. Chem., 86, 665–675, 2002
4) D.J.A. Jenkins et al., Am. J. Clin. Nutr., 34, 362-366, 1981
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血糖値上昇抑制効果を目指した澱粉の酵素分解性制御について
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所
佐々木 朋子 氏
 澱粉は穀類を原料とする食品の主成分であり、重要なエネルギー源として食事には欠かせない成分ですが、国内外で糖尿病患者が年々増加している状況下では食後の血糖値上昇に影響を及ぼす成分として、その摂取方法に関心が集まっています。イギリスの研究者Englystらは、1990年代に人工消化液による澱粉の消化性を酵素分解の反応時間によって@RDS (Rapidly Digestible Starch:易消化性澱粉) 、ASDS (Slowly Digestible Starch:遅消化性澱粉)、BRS (Resistant Starch:難消化性澱粉) に分類し、SDSの含量が食後血糖値の上昇度と関連性が高いことを明らかにしています1, 2)。その後もSDSの重要性は注目されており、近年欧州食品安全委員会(EFSA)でも、穀類加工食品に含まれる澱粉中のSDSが占める割合が40-50%を超えると有意に食後の血糖値が下がることが確認されました。このような背景のもと、食後血糖値の上昇抑制を期待し、緩やかに消化される澱粉素材、澱粉系食品の開発がもとめられています。食品に含まれる澱粉の消化速度には澱粉の化学構造および物理化学的特性の他にも、食品の物理特性や食品中に存在する共存成分が影響を及ぼしています。澱粉の化学構造と消化性の関連性については研究例も多く、澱粉中のアミロース含量やアミロペクチンの化学構造が澱粉消化性に影響を及ぼすことが知られています。一般的にはアミロース含量が高く、アミロペクチンの側鎖に長鎖画分が多い澱粉ほど消化が遅くなると考えられています。しかし、食品中の共存成分による澱粉の消化遅延作用や食品の加工・調理法による消化性の変動については、近年関心をもたれていますが、まだ報告例も少なく、今後の研究が期待されるところです。食品の加工・調理法によって澱粉の消化性をある程度制御することができれば、血糖値の上昇抑制効果をもつ食品加工技術への応用が期待できます。
 我々は近年、穀類加工食品の高機能化をめざし、パンや麺などの穀類加工食品に増粘剤(増粘多糖類)、ゲル化剤、安定剤として頻繁に使用されている非澱粉性多糖類に着目し、穀類澱粉に対して消化遅延作用を示す多糖類の探索を行い、その制御機構を明らかにするために解析を行いました。本講演ではこれらの結果を中心に、穀類の加工・調理条件が澱粉の酵素分解性、または食後の血糖値上昇に及ぼす影響についての研究例をご紹介します。

1) Englyst et al. Eur. J. Clin. Nutr. 46(Suppl. 2), S33-50 (1992)
2) Englyst et al. Am. J. Clin. Nutr. 69, 448-454 (1999)
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AACC International Annual Meeting October 5-8, 2014 Providence, Rhode Island, U.S.A.と
ICC International Rice Conference 24-27 November, 2014 National Pingtung University of Science and Technology, Pingtung, Taiwanの報告
神戸女子大学 瀬口 正晴 氏
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糖尿病と炭水化物
    〜Glycemic index , 糖質制限をめぐって〜
帝塚山学院大学   津田 謹輔 氏
1)和食と米
 昨年和食がユネスコ無形文化遺産に認定された。和食の要件は、一汁三菜すなわちご飯(米)汁、漬け物、お菜である。日本人は少ないお菜を大量のご飯と食べ、ご飯の量でエネルギー量を充足していた。
日本人の主食である米について考察する。

2)糖尿病と炭水化物
 わが国では成人の4〜5人に一人が糖尿病あるいはその予備群といわれる。糖尿病はインスリンの作用不足による慢性高血糖を主徴とし、代謝異常の長期にわたる持続は特有の合併症をきたしやすく、動脈硬化をも促進する。
食後高血糖あるいは血糖変動が心血管イベントの独立した危険因子であるという考え方は大変興味深い。そして食後血糖値に最も影響する栄養素は炭水化物(厳密には糖質)である。そこで問題になるのが糖質の量と質である。
糖質の質
 同じ量の炭水化物でも血糖値が上がりやすいものと上がりにくいものがあり、それを指数にしたものが、glycemic index ( GI )である。従来は食品に含まれる栄養素の成分に注目した議論であったが、GI は食品を摂取したヒトの反応に着目した点の意義は大きい。しかしながら単品で認められるGI値の差が、いろいろな食品を一緒に食べると消えてしまうなど臨床的に扱いにくい点もある。これらいくつかの点について触れる。
糖質制限食
 糖質制限食についての本が次々出版され一種社会現象になっている。肥満や糖尿病の治療食として学会でも議論が続いている。しかし糖質制限の定義がさだまっておらず、議論がかみあわないこともしばしばである。
 講演では糖質制限のメリット、デメリットについてまとめてみたい。
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糖尿病疾病者向けの糖質制限スイーツ
エコール辻 大阪 製パンマスターカレッジ
吉野 精一 氏
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この「ブラウニー」は、2012年1月に大阪スローフード協会より、糖尿病疾病者向けのスイーツの開発依頼を受けて製作し、同年4月に同協会主催の「大阪発エネルギーコントロール」セミナーにおいて発表したものである。その際、エネルギー関連の指導を藤原氏(1) 、山田氏(2) に仰ぎ、糖質制限スイーツの一つとして共同開発するに至った。
以下に製品の条件と製作上の問題点を表記する。

(製品の条件)
1.完成品の菓子1個、並びにデザート一皿に含まれる糖質の
  総重量を5g以下とする。
  (食べ手の精神的満足度を高めるために最低限必要な糖質)
1.カロリーには制限を設けない。(糖尿病疾患のみを対象とする)
1.おいしさを探究する。(スイーツとしてのおいしさに妥協をしない)

(製作上の問題点)
1. 種子の胚乳部にデンプンを多く含む穀物粉が使用できない。
1. 植物由来の加工糖類の使用ができない。
1. 大半の果実類の使用ができない。

(製作上の改善点)
1. 小麦粉の代替品に大豆粉を使用して製品の骨格を形成する。
1. バイタルグルテンを使用して、生地のガス保持力を高める。
1. トレハロースを使用し、デンプンの糊化による生地の決着効果を
  高める。
1. チョコレートやナッツ類の風味で、大豆粉、バイタルグルテン、
  人口甘味料由来独特の香りや味を和らげる。

(1)公益社団法人 大阪府栄養士会 会長 藤原政嘉
(2)学校法人 北里研究所 北里大学北里研究所病院
  糖尿病センター長 医学博士 山田悟
日本穀物科学研究会

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