154回例会|日本穀物科学研究会ホームページ

日本穀物科学研究会
日本穀物科学研究会
<第154回例会>
シンポジウム『TPPに向けてのわが業界の対応と今後の発展に向けての取組について』
日時 2013年5月17日(金) 13:00〜17:20
場所 たかつガーデン 3階「カトレア」
pict
特別講演
「Indonesian Food Culture, and Traditional Foodstuff of Melinjo (Gnetum gnemon) and Its Functional Properties」
Dr. Tri Agus Siswoyo
(Indonesia, Jember University, Lecturer)
インドネシアで生育するメリンジョ(Gnetum gnemon)はイチョウ(Ginkgo biloba)と同様、古生物に属し熱帯性の植物で実がなりごく普通にみられる植物でありインドネシア料理に使われている。その種子は、Sayur Asam(野菜サワースープ)に、種子を挽いたメリンジョ粉は油で揚げたクラッカー(Emping、krupukの一種)にも使われている。このクラッカーは、僅かに苦みがあり、しばしばスナック菓子やインドネシア料理の添え物として食べられる。また、葉も野菜料理として一般的に使われている。このメリンジョは、機能性食品や機能性成分の原料としての利用の可能性がある。メリンジョ種子には、デンプン(58%)、脂質(16.4%)、タンパク質(9-11%)、ポリフェノール類/フラボノイドなどが含まれており、サプリメント用の原料にはタンパク質とポリフェノール類/フラボノイドに限定される。メリンジョ木のいろいろな部位(根、茎、葉、種子、種皮)に含まれるポリフェノール含量と抗酸化性に関しては、これまでにも研究が行われており、そのポリフェノール含量は、5.97?9.91 mg・gallic acid当量/g、フラボノイド類は0.85?3.14 mg・quercetin当量/gである。抗酸化能としてのラジカル捕捉活性は、根において最も高い活性が確認されており、37.24 mg・vitamin C当量(VC eq)/gであった。部位別のラジカル捕捉活性の強さは、根(37.24 mg・VC eq /g)>葉(36.66 mg・VC eq /g)>種子(34.08 mg・VC eq /g)>茎(32.52 mg・VC eq /g)>種皮(32.48 mg・VC eq /g)の順で、ラジカル捕捉活性の主要因は、ポリフェノール成分である。メリンジョ種子の貯蔵タンパク質は30kDと12kDのタンパク質である。これらのタンパク質は、ラジカル捕捉活性(DPPH、ABTS、スーパーオキシドラジカル)、Fe2+キレート能、およびDNA損傷保護機能を示した。また、タンパク質の部分加水分解物は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性を示した。
以上のように、in vitro系で得られた結果からメリンジョ種子貯蔵タンパク質の抗細菌性、抗酸化性、ACE阻害活性などが明らかになった。これらの生物活性を持つタンパク質やペプチドは合成抗酸化物質の代替としての抗酸化剤として食品工業への利用、或いは健康増進効果を目的としての機能性食品、栄養補助食品、天然の薬剤の原料としての利用の可能性があると思われる。
  • 154_101
  • 154_102
  • 154_103
space
pict
「そば原料情勢について」
日穀製粉株式会社
業務本部 荻原 大祐 氏
日本のそば消費量は年間約14万トン、2011年より戸別補償制度が導入された影響から、国内でのそば生産数は増加したものの、年間生産数は約4万トン、自給率は凡そ30%になります。残りの70%は中国・アメリカからの輸入品に依存しています。
最大の輸入先である中国では、小麦やコーンなどの主要穀物の生産が奨励される一方で、そばの生産数は年々減少傾向にあり、FAO統計では、10年前の60%程度まで減少。その要因は、他作物への転作、農地の減少、干ばつ等の異常気候 が挙げられます。アメリカでは、昨年夏の干ばつにより、そばを含めた穀物の生産に大きな被害が確認されており、日本のそば文化を量的に支える、中国、アメリカの状況も決して落胆できるものではありません。
自給率の向上と、新規輸入先の開拓が急務の中、戸別補償制度やTPPなどの行方が影響します。
イネは今から1万年ほど前に中国の長江流域で誕生した。野生イネに人間が改良を加えたのである。このときに生まれたイネは今のjaponicaのイネの直接の祖先と考えられる。これが日本列島に伝わった時期については定説はないが、古く見積もると4000年以上前(縄文時代の中期から後期)、新しく見積もると3000年前(弥生時代の開始の時期)などの説がある。水田稲作の渡来の時期は後者の時期に一致する。このときに渡来したのはいわゆる水稲(分類学的には温帯japonica)の系統であったと考えられる。複数のDNAマーカ(SSR)の分析によると、渡来後のイネには強いボトルネックの痕跡が認められ、渡来したイネの集団が以前考えられていたよりずっと小さな集団で来ていたことがわかる。その後も選抜は続いた。明治初期には4000の品種があったが、その数は今では200を割っている。20世紀にはいって国家的品種改良が進み、できた品種には農林番号が振られることとなった。この過程で少数の限られた品種が繰り返し交配に用いられ、多様性はぐんと低下した。1956年に改良されたコシヒカリは農林100号であったが、その親は農林1号と農林22号である。
最初、品種改良は、多収性に重きを置いてすすめられた。しかし米余りや技術の限界などによって多収性に陰りがくると、今度は品質(あるいは食味)が追求されるようになった。このときに注目を集めたのがコシヒカリであった。1995年に食料基本法が施行されると米の価格はマーケットの自由裁量にまかされることになり、コシヒカリはじめごく少数の「良食味品種」がぐんと注目を集めるようになった。そしてこれを片親にする品種改良が進んで、多様性は一層低下した。
コシヒカリが生まれて半世紀。いまその寿命が来ようとしている。もとになる種子がすでに枯渇しているからである。また偽コシヒカリの出現などにより、米に対する社会の感覚も変わった。今では産地や栽培方法に注目した地域ブランド米が勢いを見せている。しかし、コシヒカリ主導の時代が完全に変わったわけではない。私は、料理や食べ方に応じた品種の開発や、自分たちが自分たちでデザインして作る新たな品種の開発を提唱している。
  • 154_201
  • 154_202
  • 154_203
space
pict
「TPP下における我が国のコメ栽培・消費の現状と未来像」
大阪府立大学大学院
 生命環境科学研究科 大江真道 氏
日本がTPP交渉参加を表明してから2か月が経つ。多くの関係者からの懸念を受けて農林水産分野の5品目、つまり米麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの重要品目を関税撤廃の「聖域」として関税撤廃の対象から外すことを交渉の前提としているが、対日輸出をもくろむ諸参加国からの風当たりは強く例外が許されるような雰囲気ではない。TPP参加に向けた流れのもとで、「攻めの農業」、「大規模化」、「専業農家が存分に力を発揮できる環境づくり」などと勇ましい言葉は躍るが、農業の現状はすでに厳しい。重要農産品の関税撤廃は農業の衰退をさらに加速させると考える。この節目で私たち国民が認識し考えるべきは食の現状とグローバルな視点からの責任であろう。40%という食糧自給率(カロリーベース)は、裏を返せば他国の土地、水、地力に依存して60%もの食糧を輸入、依存している姿である。世界的に見ても日本の食糧輸入量は既に多い。TPPで聖域なき自由化となれば、経済力の高い日本を狙い、世界の食糧の流れは変わるだろう。高い経済力を背景に世界の食糧を買いあさる姿はいかがなものであろうか。食の自給をまかなうことができない困窮した国を路頭に迷わせかねない。自国でまかなえる農産物を切り捨て、輸入してしまうことになる現在の流れは経済論にとどまらず倫理的にも考えるべき問題であろう。物事には加減がある。ライフスタイルの変化、一部の農産物の自由化を受け入れた後に続く近年の自給率40%のラインは許容できる最低のラインであろう。
本講演では、上述について1)食糧自給率の変遷、2)自由化に伴う生産者の動向、消費者の責任について、日本におけるコメ栽培・コメ品種の歴史と関連付けて話をしたい。また、私の研究課題である3)「深水栽培」と呼ばれるイネの多収技術について話をしたい。分げつ盛期(注:イネ科の茎は分げつと呼ばれる。生育中期の最も分げつを出す時期)に水田の湛水深を約25pの深水で約2週間維持することでイネを多収型の生育に導く生育制御技術である。具体的には水を介してイネに生理変化を誘導し、生育後期に穂を着生することなく立ち枯れてしまう弱小な分げつ(無効分げつ)の出現を抑え、有効分げつ歩合(出現分げつ数に対する穂数の割合)の高い多収型の生育に導く栽培技術である。無駄な分げつを抑えることで栄養生理の改善、倒伏抵抗性の向上、群落構造の良化が認められ、収量は慣行栽培の2〜3割増を達成できる。スケールメリットを生かすことが出来ない日本の栽培現場において、単位面積当たりの収量を増す多収技術は現実的なコスト低減方法となる。

  • 154_301
  • 154_302
  • 154_303
space
pict
「穀物に含まれるグルコシルセラミドを利用した機能性食品素材の開発」
日本製粉株式会社 中央研究所
機能性素材チーム 間 和彦 氏
近年、植物に含まれるセラミドを利用した機能性食品素材が市販され、保湿性向上や美肌効果など美容目的の機能性食品に用いられている。植物セラミド素材に含まれるセラミドは、セラミドにグルコースが結合したグルコシルセラミドが主成分である。スフィンゴミエリンを主体とするミルクなど動物由来のセラミド素材も市販されているが、安全性の点から植物セラミド素材に注目が集まっており、市場も徐々に伸びている。当社では2000年より「ニップンセラミド」シリーズとして、米やトウモロコシなど穀物由来のセラミド素材を開発・上市している。これらはサプリメントへの利用が多いが、ドリンク、ヨーグルト、ゼリー、グミ、青汁など食品形態に近いものへの採用が広がっている。その利用は国内が中心だが、最近では韓国トクホに素材が認可され、商品が出始めるなど、アジアにも広がりを見せている。
我々は、穀物由来セラミド素材の皮膚保湿効果のヒト臨床試験を行っており、その有効性を確認している。米由来グルコシルセラミド 0.6mgおよび1.2mgを6週間連日、経口摂取した時の効果を検討した。試験開始から2週間ごとに皮膚保湿能の測定と肌状態の観察を実施したところ、米由来グルコシルセラミドの経口摂取により皮表角層水分量が有意に上昇し、バリア機能の向上が示され、肌の状態もキメが改善された。また、トウモロコシ由来グルコシルセラミド2.0mgおよび10.0mgを経口摂取した時の効果を検討したところ、米由来グルコシルセラミドの試験と同様に皮膚保湿効果が確認されたが、2.0mgおよび10.0mg摂取群の間では差が見られなかった。このように皮膚保湿効果は確認されたが、作用メカニズムについてはよくわかっていない。
消化吸収や体内動態を含めた作用メカニズムについては、現在研究を進めている。穀物由来グルコシルセラミドを経口摂取した場合、グルコシド結合が切れてセラミドとなり、それがさらにスフィンゴイド塩基と脂肪酸にまで分解されるが1)、植物型のスフィンゴイド塩基は動物型に比べて消化管で吸収されにくいことが判明している2)。ではなぜ僅かしか吸収されない成分が皮膚保湿効果を発揮するのか、僅かに吸収された分解物が作用する可能性、腸管免疫などを介して作用する可能性の両面からのアプローチを続けている。
その他の食品機能性として、我々はこれまでに大腸ガン発症予防効果3)、抗腫瘍効果、免疫賦活効果4)などについても報告している。「ニップンセラミド」シリーズは原料に米やトウモロコシを使用した天然物からの抽出であり、合成セラミドや動物由来セラミドに比べて安全性の点で優れている。今後、機能性食品を含む食品や飲料、サプリメント、化粧品などに広く利用されることが期待される。

 1) Sugawara et al., J. Nutr., 133, 2777 (2003)
 2) Sugawara et al., J. Lipid Res., 51, 1761 (2010)
 3) Aida et al., J. Oleo Sci., 54, 45 (2005)
 4) 特許第4962754号 (2012)
  • 154_401
  • 154_402
  • 154_403
pict

PageTop